現代詩手帖9月号『詩型の越境』の巻頭にあるシンポジウムの記事を思い出したのです。穂村さんは、詩人が短歌を詠むときは「永遠」や「地球」といった形而上を短い助走で詠う傾向があり、歌人は黒ごまの浮かんだ牛乳など形而下をまぜて詠むという主旨の発言をなさっていました。ならば歌人の作った短歌をモチーフに詩人が詩を書くとき、一体どんな化学反応が起きるのか?そんな疑問がこの企画のはじまりです。
今回は、穂村弘『シンジケート』より、それぞれが担当するシアン、マゼンタ、イエロー、ブラックのイメージで短歌を引用し、詩として融合させています。四色あれば何でも表現できるがCMYKのコンセプト。短歌と詩の虹色の架け橋となれることを願って。皆様にお楽しみ頂ければ幸いです。
(文章:中家菜津子)
穂村弘『シンジケート』引用詩×CMYK
短歌はすべて穂村弘『シンジケート』より引用しています。
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Cyan:草間小鳥子
ゼラチンの菓子をすくえばいま満ちる雨の匂いに包まれてひとり
浴槽いっぱいこしらえた。
板ゼラチンをきしきしとふやかし青色一号にかわり曇天をたたえ。
まだ蕾の露草も水たまりのアメンボもと好き勝手放り込み、あそびの過ぎてみずからを固み込めてしまったのは誤算だった。
小雨降り染むしかし音は遠く。透明水菓のなかついに時は閉ざされたか
まつ毛を伏せれば。
露草の艶やかにひらく仰ぎ見やればアメンボが浴槽のはしからはしへすいと渡る、水たまりのおもてむこうへの到達。
さあ虹はまだか。
Magenta:中家菜津子
「キャンドルをつけてから灯りを消したら、つまらないね。」
つまり、つまる、つまらない、そうやって決めるとき、
赤と白もOFF
暗闇に苺は沈みこみ
夜の太陽のようにテーブルの地平からは消えた。
「灰色。になったクリームは二者択一ではない謎。」
簡単だよ、息をする/くらい/息をすえば肺には闇がつまる。
「ハッピーバースデー」
貴方のことば、貴方のひかり、地平線からやってきて、
呼吸する色の不思議を見ていたら「火よ」と貴方は教えてくれる
Yellow:亜久津歩
わざわいは夏降り注ぎママレードの中にのたうつオレンジの皮
わななきざわめく春も今は懐かしい
振り返るな葬送/犠牲者は0のまま
レールはどの天国へ?涙の哀しみの
憎しみの耐えられない「美しさ」は
オーブンレンジでチンの刑。渇けよ、
愚かなかみなりみたいに愛してやるよジンジャエールに痺れた舌で
音。
漏泄する果汁を舐めとり、かみ、ちぎる音
(撓り斃れる針をみた)今に甘い死がおと、ずれる
天井に闇は散るよ風、夜風、夜風
じん、じゃない、ぢん。と裂けるエートス累累、肉だけが
信じられる美だ、夜風、劣情を喩える微笑の下で
Key Plate:黒崎立体
秋になれば秋があいしている色のすりへってゆくしくみが好きよ、
というふりをしてひとつも分かっていなかった、
コインの爪先で削る恋うらない:しずかにしているしかないでしょう
だからってオーケストラの消音、あんな楽器の前では人が記号に見えてきて、
ゆうけいのちずを描くつもりが描かれてみんな内側にいたんだ
ね、次は夢うらないをしようね
秋になれば秋が好きよと爪先でしずかにト音記号を描く
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